多様性を尊重するフランスの新法律-髪型差別対策法

2024年3月、フランスが髪型に基づく差別に対して革新的な法律を導入。 職場の多様性を高め、全ての髪型が尊重される社会の実現に向けて、この法律がもたらす社会への影響とは?

労務

5/26/20241 min lire

2024年3月末、フランス国民議会は、髪型に基づく差別を防止する法案を可決しました。「頭髪差別に対する法(Loi contre la discrimination capillaire)」という一文をタイトルに見かけたとき、思わず二度見してしまいました。頭髪?と。

フランスの企業では、すでに労働法典により差別が禁止されています。身体的特徴や出自、性別、年齢、宗教、政治的意見や健康または障害の状態など、採用時および職場における差別を防止するため定められた項目は多く、社員はこれからの事項による差別から法によって保護されているはずです。

そこにきて、ピンポイントに頭髪差別に関する新法律の誕生。以下、その生まれた経緯や期待されることをまとめます。

法案の背景

この、頭髪差別に対する法(Loi contre la discrimination capillaire)は、身体的外見、特に「髪のカット、色、長さ、質感」に基づく差別を禁止することを目指しており、特にアフロヘアや他の特徴的な髪型を持つ人々が職場で直面する差別に焦点を当てています。

アメリカでの統計になりますが、およそ3千人の女性(黒人、白人、ヒスパニック系それぞれ1/3ずつの割合)を対象に2023年にDove社とLinkedin社が共同で行った調査によると、調査に答えた人のうち3分の2が採用面接前に髪型を変えると返答しています。これより、面接における「髪型」の重要性がうかがえますね。さらに、そのうち41%がストレートヘアにすると答え、就職後も、25%の人が髪型のせいで職場から家へ帰されたことがあるそう。また、勝手に髪に触れられる、髪の中にペンを入れられる、髪を悪く言われるなどのアフロヘアの人への職場での小さな嫌がらせは、ストレートヘアの人がうけるそれのの2倍にのぼるという報告もあります。さらには、アフロヘアは髪が「非プロフェッショナル」と見なされたり、髪のせいで仕事の能力を低く見られる可能性が高いと指摘されています。

特にアフロヘアへの偏見が強いですがそれだけではありません。民族的多様性が西欧諸国ほど豊かではない日本ではなかなか意識されないことですが、髪に関する偏見はあらゆる髪色、髪質に見受けられます。例えばブロンドヘアの女性はあまり知的ではないという根も葉もない偏見(や、それにまつわるブラックジョーク)がいまだに存在するし、赤毛への偏見もあります。2009年にイギリスで行われた調査では、3人に一人のブロンド女性が、より賢く見られたり昇進の機会を得るために髪を暗い色に染めていると答えたそうです。

法的枠組みの強化をめざして

企業内での差別を禁止する法はすでに労働法典に存在するものの、こういった職場での根強い無意識の偏見と戦うために、すでに存在する法的な保護をさらに強化する必要がある、というのがこの度の法案の支持者の主張。

この髪型に関する法案の発端はエールフランス航空の客室乗務員だった男性が、ドレッドヘアが理由で解雇されたことにたいする訴訟でした。長いドレッドをお団子ヘアにまとめたものは許されず、かつらを被ることを強要されたり搭乗が許可されずに家に帰されたりしたというものです。ちなみに、同航空会社においては、女性がドレッドヘアをおだんごにまとめて勤務するのは規定違反ではないということです。10年以上かかって男性の主張が認められました。

フランスにおける髪型差別対策法の多様な視点

この新しい法律の導入は、職場での多様な髪型に対する公正な扱いを目指していますが、フランス各紙の意見は様々です​​。

『ル・フィガロ』紙は、この法案がフランスの伝統と相容れないアメリカ式のアプローチを取り入れていると批判。法案の必要性に疑問を呈し、既存の法律で充分対応可能だとコメントしています。また、おのおのの身体的特徴に固執することは、逆に社会的な分断を助長する恐れがあるとの見解も示しています。

一方、『リベラシオン』紙は、髪型差別が健康問題にも繋がることを指摘しています。アメリカおよびイギリスで行われた調査によると、ストレートヘアにする縮毛矯正剤を使う女性は子宮のがんリスクが3倍になり、腫瘍ができる確率も3倍高くなるのだとか。また、マルセイユにあるコンセプション病院が行った調査では、縮毛矯正剤は腎臓に害を与えることも明らかになったそうです。このことから、この法律が国の「公衆衛生の問題」としても重要であると述べています。

おわりに-今後の社会への影響

フランスにおいて髪型差別という比較的見過ごされがちな問題に光を当てたこの法案。多様性を尊重するフランスらしい法案だと感じ取り上げてみました。

経済的な側面から見ると、職場での多様性が高まることで新たなイノベーションが生まれ、幅広い消費者層に対応できるようになる可能性があります。その一方で、企業にとっては新たなコンプライアンスの負担が増えることも予想されますね。

今後、この法律がどのように適用され、社会にどのような変化をもたらすのかが注目されます。国内外の同様の動向にも影響を与えるかもしれません。

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参考サイト

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